(森谷洋介)





俺は部活のバドミントンの他に、習い事としてアルトサックスを習っていた。


久しぶりにアルトサックスが吹きたくなってきた。
選択授業も音楽コース選んだし、吹いておかなきゃなあと。
俺はケースから楽器を出し、組み立て、音を出した。

やっぱり、この感じ、好きだな…。


中学生の時にもらった「アディオス・ノニーノ」の楽譜を出し、俺はずっと吹いていた。
この曲は佑香のピアノ伴奏に合わせてよく吹いていた記憶がある。
最後に講師の先生にもらった楽譜だ。




しばらく吹いていたら、たまたま佑香の部屋に来ていた舞花がやってきた。

「やっほー洋介!今日はアルトの練習?」
「うん。3年の選択授業も音楽コース選んだし、俺も音大目指そうかなっても思い始めてる。舞花の話聞いてるとやっぱ吹きたいなあって」
「そうだよね、洋介バド部だもんね。」
「まあ俺も今まではサックスは趣味程度でやってたけど」
「そっか。てかこれから佑香が部活らしいしさ、私も部活後で楽器あるし、一緒に吹かない?」
「お!いいな!」

舞花は音源を流し、1年生の時によく一緒に吹いていた何曲かを吹いた。


「あー、楽しい!っていうか洋介さっきアディオス・ノニーノ吹いてたよね、あれ吹けるんだ!」
「まー吹けるけど、思い出の曲でもあるんだ。講師の先生体調崩す前最後にもらった楽譜でさ。」
「そーなんだ!私はこの曲でソロコン1位とったなー。中1の時。」
「あ、あの時吹いてたの舞花だったか!俺ソロコンは聴きに行ったよ。すごかったのやたら印象に残ってる」
「ふふ。ありがとう。ところで洋介っていつもソロだよね?」
「うん。ソロだよ」

そういって舞花は楽譜を取り出した。

「アディオス・ノニーノね、サックスアンサンブルのもあるんだ。あと同じくピアソラ作曲の「ブエノスアイレスの四季」から「ブエノスアイレスの春」、そしてさっき吹いた「リベルタンゴ」とかね。」
「アンサンブルね…。習い事やってた時にちょっとやったぐらいかな。俺吹部とかじゃないしさ。」
「うん。今私たち6重奏の「ブエノスアイレスの春」練習してるんだけど、良かったら明日ぐらいにでも来れないかな…?明日は部活終わった後、地区会館で練習するから。私らサックスパートはこうやって練習時間外でも集まって吹いてるんだ」
「え、いいのか…?」
「うん、いいよ」



と、いうわけで俺は次の日、桜高吹奏楽部のサックスパートとまざるように練習に入ったわけだ。
部活の時間外だから、特に何も言われないよって言っていたし。
むしろパートの後輩は、俺のこと知ってる人多いらしいし、昔同じ教室だった人もいるっぽい。



「じゃあ、紹介するね。私と同じクラスで、昔からサックスを吹いていた、森谷洋介。吹部ではないけどかなりうまいよ。…じゃあ、今日は洋介のアディオス・ノニーノ最初にきかせてもらおうかな。」

…え?
って思ったけどもうすでにピアノが用意されていた。
ピアノ伴奏は、1年生の時に同じクラスだったA組の小森すず。
小森とは何度か舞花と一緒に3人であわせたこともある。


…演奏終了後、盛大な拍手をもらった。

「洋介先輩、すごいですね…!」
裕也の妹、夏希ちゃんにもそう言ってもらえた。


「じゃあ次はこっちの番だね。」
そういって「ブエノスアイレスの春」を吹いた6人。

舞花はこの曲ではソプラノサックスを吹いていた。


「…洋介、きいてくれてありがとう。洋介たしか初見きく人だよね?」
「うん。初見はいけるよ。」
「じゃあさ、これ一緒に吹こうよ!」

そう言って取り出した楽譜は…
「アディオス・ノニーノ」のサックスアンサンブル。

「とりあえず編成は私、洋介、夏希、すず、和、愛羅の6人にするね。美優はおやすみ。いくよ!」



アンサンブルはとても久しぶりだった。
とってもいい。気持ちいい。
こうやって人と合わせるの…いいな。

今、本当に楽しい。
同じサックスを吹いてる人と一緒に練習できて。
吹奏楽部に入ってればもっととよかったのかな、とも思うけど。



他にもたくさんの曲を吹いた。



時間がたち、もう夜。

「よし、今日はいつもより長めだったけどご苦労さん。洋介と一緒に吹いたことで、みんないろいろ成長できたと思う。洋介、本当にありがとう。」
「いやいやそんな、お礼を言うのはこっちだよ。練習に入れてくれてありがとう。」

「森谷くんとまた練習したいねー」
「わかります!ホントに楽しかったですよね!」
「またいつでも来てくださいね!」


そういわれて、この日の練習は終わった。



最高に楽しかった1日だったな。



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